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英空港に置き去り? ツアー客が旅行会社を提訴 2

2013.06.17

前回のブログに続き、こちらのニュースを私の視点で見直してみたいと思います。添乗員に置き去りにされて精神的苦痛を受けたと主張する男性が、仙台地裁に訴えを起こしたというニュースです。

英空港に置き去り「頑張って帰って」 ツアー客が阪急交通社提訴
SankeiBiz 2013.6.5 19:45

さて、「置き去り」という表現。
この言葉が発信するイメージはどんなものでしょうか?

weblio類語辞典によると、「置き去り」の同義には「見捨てる」「見殺しにする」「ないがしろにする」「ほったらかしにする」など穏やかでない類語が並びます。

「添乗員に置き去りにされた」という表現で多くの方の頭に浮かぶのは、海外慣れしていて緊急時にもスマートに対策を立て交渉することができる添乗員=強者に、日本から遠く離れた海外で右も左もわからず言葉も不自由な旅行客=弱者がひとり見捨てられ途方にくれた姿なのではないでしょうか。
もし自分がそんな目にあってしまったら…と想像してみれば、当の男性の不安や動揺や心労に大いに感情移入してしまうのも無理はありません。ひどい添乗員だと責めてしまいたくもなるでしょう。

ここで、私の視点でこのケースを見直してみたいと思います。

まず、「置き去り」は本当にあったのでしょうか?
報道された一文を何度も読み直しましたが、「置き去りにされて」とは男性の主張であって、添乗員が旅行者を切り捨てて責務を放棄したという事実は報道からはうかがい知れないのです。
もしかしたら添乗員は航空会社との搭乗交渉、現地旅行会社へのフォロー依頼、日本への緊急連絡など、その状況でできうる限り安全管理上の手配を遂行したかもしれない――という通常とられるべき行動があったのではないかと考えると、「置き去り」という言語が喚起するイメージによって、このケースの輪郭が早々に描かれてしまっているように思えてなりません。
※はたして本当に無責任に放置されたのかどうかわからないため、この記事のタイトルでは「置き去り?」としています。

次に「不適切な対応で精神的苦痛を受けた」とのことですが、では「不適切な対応」とはどういった対応だったのでしょうか?
「不適切」とは一般的に誤った判断や行動を指しますが、このときの添乗員の判断や行動が法務上や道義上において過失といえるものであったのでしょうか?添乗員は、当の男性も含めた旅行者全体の安全で円滑な旅行の実施を確保することに努力しなかったのでしょうか?それともトラブル発生時の発言について「不適切な対応」と指摘しているのでしょうか?
これらの点はこれから双方の申し出によって、当時の状況が明らかにされてくることでしょう。

文字数制限のある報道からは判断材料が限られてしまうことは前回のブログでも申し上げました。インパクトのある表現に目をとられて良し悪しを量るのではなく、知りえた客観的事実に沿って公平に判断することを心がけることが肝要なのではないかと考えます。

また、「最終日程表」の存在について。
旅行会社は確定書面とも呼ばれる「最終日程表」を参加者に事前交付することを約款で定められています。その書面にはおしなべて緊急連絡先が記載されています。盗難や事故や災害など、一個人では対処できない重大な事態に陥った旅行者をフォローするために設けられたホットラインです。
搭乗して機内から男性と連絡をとった添乗員は、男性の手元にある確定書面に記載されているはずの緊急連絡先の存在をまずは伝えることをしなかったのでしょうか?それを伝えれば男性の不安は、十分とは言えないまでも少しは軽減できたかもしれません。

報道からは、結局のところ当の男性がすべての帰国手配をご自身でされた様子がうかがえます。なぜ男性はひとりで手配せざるをえなかったのでしょうか?緊急連絡先の存在に気づかなかったのでしょうか?知っていたけど、あえて連絡しなかったのでしょうか?それとも連絡したのにつながらなかった?つながったけど、そこでも不適切な対応(?)を受けた?

クレームのきっかけは「添乗員と男性」という個の関係図から始まったのでしょうが、「旅行会社と男性」という関係図にシフトしてなお解決がなされなかった理由はどこにあるのでしょう。法廷の場に持ちこまれる前に相互間で解決がなされなかったことは、旅行会社と男性の双方にとって残念な成り行きです。男性がここまで強硬な態度をとらざるをえなかったのは、トラブルが発生してから今日までの間に、企業と顧客の信頼関係が構築できなかったことが原因のひとつなのは間違いないと考えます。

CSクレーム対応においては、客観的問題と心情的問題の両方にアプローチしないと円満な解決に結びつかないと言われています。初期対応でお客さまの心情と状況にまずは共感を示すところから、信頼関係の構築が始まります。突発的なトラブルに見舞われた男性の心情的問題の大きさ重さに相応したお詫び言葉は十分に発信されていたのかどうか、気になるところです。

どのような判決が下されるのか、引き続き注目したいニュースです。

※当ブログ記事で「旅行会社にばかり肩入れしている」と思われてしまったとしたら、それは私の文章力が不足していることが原因です。かつて旅行会社に在籍していた経験から報道だけでは見えにくい観点を挙げ、短絡的な判断に陥らず双方の視点を持つように心がけてみてはいかがでしょうかという考えを述べた次第で、決して当事者の主張を疑わしく思っているわけではございません。もし誤解を与えてしまったのであれば、筆者の言葉足らずをここにお詫び申し上げます。

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